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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)280号 判決

控訴人

右代表者法務大臣

稲葉修

右指定代理人

仙田富士夫

ほか三名

被控訴人

財団法人工芸学会

右代表者理事

竹田恵

右訴訟代理人

金田泉

被控訴人

安江外美子

右訴訟代理人

田口尚真

主文

本件控訴ならびに被控訴人財団法人工芸学会に対する当審において拡張した請求および予備的請求をいずれも棄却する。

当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

第一主位的請求について

当裁判所も控訴人の主位的請求は、当審における新たな主張をも含め理由がないものと判断するところ、その理由は、次に付加・訂正するほか、原判決書の理由欄に記載されているのと同じであるから、これを引用する。

(一)  《省略》

(二)  貸付料(賃料)不払による解除について《省略》

(三)  無断現状変更による解除について《省略》

(四)  用法違反による解除について《省略》

(五)  控訴人の当審における主張第二項・(一)について

控訴人の右主張は、みずから賃貸借契約を解除したと主張し、かつ、それ以後前賃借人が賃借物件を不法に占有しているとしながら、なお右によつて解除となつた後の賃料不払を理由として改めて同賃貸借を解除するということに帰し、それ自体矛盾し、採用のかぎりでない。このことは、被控訴人学会が右解除されたとする日以後の賃料を控訴人に弁済提供をしても、控訴人においてこれを賃料として受領する筈のないことでも明らかであり、右解除を原因とする賃貸物件明渡の主位的請求を排斥する旨の判決が確定することを停止条件として未払賃料を受領する予備的請求とは全く性質を異にするものである。

(六)  控訴人の当審における主張第二項・(二)について

この主張についてはすでに引用の原判決において、同旨の主張があるものとして判断したところは、当裁判所の判断と同旨に出でるものであり、さらに、控訴人が本件賃貸借契約を解除したとする昭和四三年二月二八日以降本件土地、建物使用対価の支払がなされていない事実も、前項の説示にてらし、控訴人主張の信頼関係破壊を認定できる附加事情とはならない。もつとも、被控訴人学会がその会員外の第三者に開放研究室などの名義で占有させていたことのあることは前認定のとおりであつて、その点で原判決の認定と相違する部分もあるが、その占有状態も前出判断のとおりであつてみれば、これをも総合してみても、結局控訴人主張の信頼関係破壊として本件賃貸借契約の解除原因となる程のものとはいえず、同主張も失当として排斥を免れない。

第二予備的請求について

控訴人は被控訴人学会に対し、控訴の趣旨二・3に記載の金額の範囲内で本件賃貸借契約存続期間分について貸付料としての支払を求めるので、これを検討する。

控訴人が被控訴人学会に対し昭和四一、同四二年度分の本件貸付料として年額七八万二、八四六円の支払請求をなし、同被控訴人が昭和四一年度分および同四二年度分のうち同四三年三月分を除くその余の部分を、延滞料を含めて同四五年六月二三日までに完済したことは当事者間に争いがない。

昭和四三年三月分の貸付料六万五、二三七円(。円位未満切捨)については、本件契約解除を主張する控訴人においてその受領を拒絶し受領遅滞の状態にあることはその主張自体に徴し明らかであるところ、〈証拠〉によれば、被控訴人学会は昭和五〇年四月一五日に昭和四三年三月分の貸付料として六万五、二三八円を弁済供託していることが認められるので、右貸付料については弁済の効果を生じており、かつ、控訴人は同貸付料につき受領遅滞の状態にあつたのであるから、これに対する延滞金を被控訴人学会に請求することはできないといわねばならない。

控訴人は、そのほか昭和四三年度以降の貸付料を請求するのであるが、引用にかかる原判決の説示するとおり、控訴人の被控訴人学会に対する本件貸付料は、「賃貸人(所管庁大蔵省)の定める普通財産貸付料算定基準を基礎として確定した金額」とし、その納付期日は「賃貸人の発行する納入告知書によつて指定する」ものと定められているところ、控訴人において昭和四三年度以降の本件貸付料につき右約定にもとづく貸付料金額を定め、その納入告知書を発行し納付期日を定めた事実を認めうる証拠はない。

そうだとすると、控訴人の被控訴人学会に対する右貸付料請求権はまだ具体化せず、したがつて行使しうるには至つていないものというほかない。したがつて、また被控訴人学会に同貸付料についての延滞金(日歩四銭の約定)支払義務の生ずるいわれはない。

してみれば、その余の点につき判断するまでもなく、控訴人の被控訴人学会に対する予備的請求もまたすべて失当たるを免れない。

第三結論《省略》

(畔上英治 安倍正三 岡垣学)

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